電子説法室のカウンタが今でも少しずつ増えているので、訪れてくださる方もあるのだなあ、と思っていたところ、伊豆のHaruさんから「読んでます」というメールを戴きました。それで久しぶりに栄眞のお話を聞いていただこうという気になりました。こころ音痴
Mind Blindness
サリーちゃんは 籠に ビー玉を入れて お部屋を出ました。そこへアンちゃんが入ってきて、籠にある ビー玉を箱に移します。これは「サリーとアンの課題」 と呼ばれるものです。4歳くらいになると「サリーは籠に入れたのだから籠の中にあると思ってそこを捜すだろう」と考えることができるようになります。
さてそこへサリーちゃんが帰ってきました。サリーちゃんはビー玉をどこに捜しますか?ところがこれに対して「箱」と答える子供がいます。ビー玉は箱に入っているのだから、サリーは箱を捜す、と考えるわけです。
つまりそういう子はサリーの心に添って考えることができないのです。他人の心が読めないと言う症状。これをmind blindnessというそうです。
この人たちには、他人の表情を読み取ることも困難なことです。うわの空でいる顔か、懇願している表情か見分けることができないし、真剣な表情なのか、困っている顔なのかわからない。
上に書いたのは NEWSWEEK 2000.8.30「自閉症の心に光を当てる(Understanding Autism) 」という記事中に記されていたことです。「音程を感じることができない<音痴>、方向を感じ取ることができない<方向音痴>のように、人の心を読むことのできない<こころ音痴>の人がいるね。」
と、最近たびたび息子 不綺言やお姑様と話し合っていたわたくしは、この記事をみて、「これだ! 」と思いました。わたくし達のよく知っている何人かの人が、人の気を悪くさせることを平気で言って、こちらが厭そうなようすをしているのに一向止めようとしないのです。年を取るほどにそれは激しくなって、度々不愉快になっていました。
でもその人たちは ひょっとしたら わたくし達が嫌がってるなんて夢にも思わず、厭そうな顔をしていても、それを知ることができないとしたら...
やっぱり<こころ音痴>はあるんですね。
mind blindness の人は会話が苦手です。ことばの背後にある意図を読み取ることが彼らにとってはとても難しいからです。共感すること、冗談と本気を区別すること、それらも困難なことです。
これを主症状とする自閉症児は500人にひとりの割合で生まれると書かれていました。ダウン症や小児ガンを上回る割合だそうです。その5人に4人は男の子です。
とにかく70年代に言われた「親の育て方が悪くて自閉症児になる」という定説は完全に否定されました。まだ原因はよくわかっていないのですが、とにかくこれは脳の失調、つまり病気なのです。(大脳辺縁系の社会行動を司る部位が異常に小さい)
こういう子供たちのために、ABA(応用行動分析)と言う訓練法があるそうです。課題を数段階の作業に分けて繰り返し練習させ、うまくできたらご褒美。根気よく、時間をかければ適切な行動をマスターさせることもできるようです。(方向音痴のわたくしが、地図を覚え込んで、走りながらそれを繰り返し確認して、路を覚えるように、別の脳を働かせて「○○音痴」を克服することはある程度可能でしょうね。脳はとても柔軟な力を持っていますもの。)
うまくコミュニケーションがとれなくて 暴れちゃう人もいますね。でもその人ははじめから周りの人を困らせようとしてそうしているのではなく、「懸命に生きようとしているだけなのだ」と書かれていました。辛抱強く、繰り返し働きかけましょう。
mind blidness と症状が特定できるほどでなくても、境界領域の人がいることは当然考えられますよ。このボーダーの人を入れると、500人にひとりは一体どんな割合になるのでしょう。あの人はちっとも人の気持ちをわかってくれない」「ちゃんと反応してくれない」と腹が立ったり、悲しくなっちゃうことはありませんか? でも、そんな病気があるんですよ。
視力のない人に「なんで見えないのよっ!」と怒ることが不当であるように、<こころ音痴>の人に対して「人の気持ちも知らないで」とひとりで怒ったり泣いたりするのは正しくありませんね。
他人の気持ちを知ることがとても難しい人がいるということを、わたくしたちは分かってあげましょう。「わたしの気持ちわかってよ!」ではなく、そういう人にも理解できるように、ちゃんと自分のこころを伝えるように努力することが肝要です。辛抱強く、繰り返し。それが愛じゃありませんか?
説法室indexへ注)このページの壁紙gif.は、小学生の広大くんが一生懸命作ったのを貰ったものです。
広大くん、ありがとう。 http://www2.memenet.or.jp/~koudaiokadamk@hept.himeji-tech.ac.jp
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