栄眞尼の
 
電子説法室
 

第31回
 
 『荷物を持たない旅人になり』
 
1999.08.29

決して過去を振り返ることなく、
 
自由な憧れのうちに この日々を過ごそう
 
私たちも 荷物を持たない旅人になり、
 
自分にすることが出来たかもしれない
 
あれやこれやを考えず、
 
そんなことは問題にもせずに
(モーリス・ズンデル 「黙想のはじめに」)

大切に大切に愛してきたものですが、もう手放すことにしました。もっと前にそうすべきだったのかもしれません。中々決心がつきませんでした。

手放すというのは正確な表現ではないかもしれません。もう とおから 手の中になどなかったのですから。

持っていると思い込んで 握り締めていました。怖くて開けられませんでした。勇気を出して開けてみたら なかには何もありませんでした。


じっと持っていたら いつか 手のひらの暖かさで孵ると思っていたのかもしれません。石を暖めても孵らないのに。

握り締めた故に、石は砂になり、指の間から漏れてしまいました。その後も、ないものを そのまま握り締めていたのでした。

そんなに虚しい別れでした。考えてみたら、出会いもなかったのかもしれません。あったように思っていただけの、そんな幻のようなものでした。


もう 手には何もありません。なんの荷物も持たないで わたくしは旅に出ます。重荷を降ろして軽々と。夢を捨てて 寂々と。

自分を責めて 自分と戦うことはやめました。自分を刺し続けた眼差しは これからは もっと遠くになげましょう。

岸辺にしがみ付くのもやめて、海の真ん中に身を投げ出しましょう。荷物を持たぬ旅人は、抜き手を切って泳げます。その力の尽きるまで。


と、そのような決心をしなければならないことが 人生にはありますね。荷物を降ろしてしまいましょ。心を そこから遠くに 旅させましょ。

そして、こう言ってみましょう:「荷物を持たぬ旅人には もう何も怖いものはありません。わたくしは穏やかで、恐れを知らず、自由です。」と。


[参考文献]
モーリス・ズンデル『日常を神とともに』福岡カルメル会 訳
(女子パウロ会 1993)¥1400

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