学術振興会 人文社会科学振興のためのプロジェクト 第1領域横断シンポジウム
2004年6月22日(火)12.00-16.00
岡田真美子のインパクトメモ
キーワード:高コンテクスト文化/語られないもの/英語にならないもの/教えられないもの
■縁
関係性を問うということでは、蔡先生があげられた、Performance(個人の生産性)はAbility(個人の能力)Motivation(個人の動機付け)Situation(状況)による、という式の、「状況」と深く関係する
また苅谷先生 のあげられた2(3)Sociolizationのところにも縁は関係してくる。
■日本型とは?
継承すべき日本型システムとは何かから問必要があるのではないだろうか。
われわれが日本型であると信じているものの中に、たかだか50年100年の歴史しかないものも多
い。例えば終身雇用はそれより古い伝統的な日本型雇用システムというわけではないだろう。《丁稚→のれん分け》時代の企業教育はどうなっていただろうか。
履歴を問い直してみよう
■顕在化していない日本的なもの−ハイコンテクストの国
青島先生が「ハイコンテクストである日本の品質管理がローコンテクストの国でどうなるのか」という問題提起をされた。
高コンテクスト社会のなかで語られないものは多い。
これは苅谷先生のおっしゃる「教育の失敗に関しては、思い込みや印象から語られたものが多いので
はないか」という問いかけとも共通するものがある。そのようなコンテクストから切り離された議論
を見直してゆくことも大切である
要するに「名前はなかったけれど、確かに在ったものをとりだして顕在化する作業をする」(小長谷
先生)ということなのだ。
■英語にならないものをしてゆく努力
葛西先生が研究題目が英語になりにくかったという話をされた。
英語にならないというのは、その概念がそのままで英語文化には存在しないことを意味する。
だからといってあきらめてしまってはいけない。これを英語で叙述する努力の過程においてわたくしたちは多くを学べるからである。
■教えられないものと教えられるものがあるのではないか(沖先生)
何でも教えられると思うから教えられないときに失敗したと思う。
教えられないものをどう継承して行くのかは大きな課題である。
■岡田の報告の要旨
1.コア2岡田チームのテーマは人的関係性=縁である
従来 共同体の人的関係性は、地縁、血縁、無縁とされてきた。
しかし現在ある町内会は昭和以降のもので、その前身である地域の仕組みで区長がおかれたのは1889年、血縁で問題になる「家」の観念も明治起源であることがわかっている。
これら現在崩壊しつつある地域・家のしがらみ組織は古い伝統であるとはいえない。
2.結縁ネットワークに注目
より伝統的な地域のネットワークをみるとき、地縁以外に結縁ネットワークがあったことがわかる。そのうちもっともちゅうもくしているのが「講」である。
講がカバーするのは、従来から知られる宗教的なグループ(参り講)以外に、経済問題(頼母子講/無尽講)から介護(看取り講)・葬儀(葬式講)まで多様である。
講はすでに消滅したものではなく、最近あたらしく生まれている講もある。そのうち和歌山の接待講(積み立てて集めた品物を持って、四国へ遍路の接待をしに行く)、兵庫県村岡町の商店街の観音講などがある。
講の特徴として、次の3つが観察される@定期的集会をもつ Aプロジェクト型である B越境的である。
このうちAの部分が意外に認識されていない。講にはそれぞれ明確な目的があり、この目的が達成されたら解散されて、また新しい講が組織される。この可塑性、組織体の柔軟構造が講の真面目であると考えられる。
これから、講の衰退は講組織の固定化によるということが出来る。
3.宗教と継承教育
神社寺の教育に果たした役割をみるとき、寺子屋教育のみならず、祭礼が技術・芸能の継承、地域経営の知恵の継承を行っていたことがわかる。
これに関してコア研究では、宮座と頭屋制「お頭渡し」について合田博子氏(兵庫県立大学環境人間学部)の講義を受けた。(2004/1)
4.地域のセーフティネット
淡路島北淡町・一宮町では大震災翌日には行方不明者ゼロであった。この最大の要因は田主組織等により培われた「人と人のつながり」にある。
また兵庫県小野市のため池破損の補修が震災後3日で行われた。この迅速な対応の理由は、ため池を巡る地域の役員システムにあった。農会委員、土木委員(水利)3名、道路委員2名 評議員3名→副区長→区長任期1年 をメンバが歴任してゆく仕組みによって、地域の問題を全員が共有していたのである。
これら地域の常勤行為の重要性を示す例を、ため池研究の森下一男氏(香川大学工学部)コア研究から学ぶことができた。(2004/01)
5.日本型とは?
日本的の一つのヒントは音楽にある
西洋近代の理論的に精緻に積み上げられる音楽ポリフォニーに対して、邦楽はヘテロフォニー(異音現象)という発達をたどった。偶然でそこ場だけ響く音あり、異質な音を含んで渾然一体として存在する音楽である。ポリフォニーは耳をすませて「聴く」ものであるのに対し、ヘテロフォニーは「聞こえる」ものである。
「和」はこのヘテロフォニーから生まれた、異質なものの並置を許す文化、多様性を内包文化といってもよいだろう。和音は異なる口から出る音を束ねたものであり、同じ音なら斉唱にしかならない。
6.日本型人的活動システムとしてのマンダラネットワーク
次に日本型システムというものを視覚的に考えてみよう。
華厳哲学に 重々無尽のIndrajala(帝網)というものがある。
宝玉を金糸銀糸がつなぐ宝の網である。ネットワークのノードに当たる宝玉は、合わせ鏡のごとく無限に重なり、互いに照らしあって輝きを増す。宝玉同士の関係は「相依性」であって、ネット用語で言えば双(多)方向性を有するものである。
今回のコア研究会で考えたことに、このインドラネットがべた並べでは機能しない、ということがある。中央集権組織が複雑な社会ではもはや機能しないことは明らかになったが、されとて、単に並列分散でありさえすればよいというものでもないのである。
宝珠を持ち上げるとその下にネットワークがある3D並列分散ネットであること。そして大切なのはペンダントヘッド宝珠が時に応じて入れ替わる柔軟構造であることである。
さまざまな場面でこのマンダラネットワークを書いてゆきたい。マンダラを書くことによってはじめて見えてくる関係性がある。この関係性を解明するだけで解決する問題も多い。
7.今年の課題
(1)教育に関する課題
@地域の継承教育システム研究
A環境学習・環境教育
兵庫県で海の環境教育プロジェクトがはじまった。
森川海のつながりにおいて、地域と連携協働しつつ、学校・教育委員会に提案してゆく。
(2)「場と縁の継承・再生」(仮称)プロジェクト国際会議
第1領域 桑子プロジェクトと兵庫県が共同で国際会議をする
うち、コア研究2は地域通貨国際会議を兵庫県と協働主催する
その趣旨は、復興10年を記念して地域における関係性の継承と再生を探ることにある。
国内外の地域通貨実践者を集め、地域経営の智を交換し、これからの活動の糧を得る
2004年12月18-19日(土-日)
場所:神戸の兵庫公館
第1日目
シンポ1「空間の継承と再生」
シンポ2「地域通貨国際会議」
第2日目
ワークショップ/合同シンポジウム
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